「東司の作法」「寺の房舎に住むようになってから、便所が建てられた。これを東司という。あるいは圊といい、廁ということもある。僧のあるところにかならずあるべき建物である。東司にゆく法は、かならず手巾をもつ。手巾はふたえに折り、左の肘のうえあたりの袖のうえにかける。すでに東司にいたったならば、竿に手巾をかけれがよい。その掛け方は、肘にかけるようにすればよい。もし九条・七条などの袈裟衣を着ていたならば、手巾にならべて掛けるるがよい。落ちないように、よく並べておくがよい。あわただしう投げかけてはならない。またよく記号に注意するがよい。記号というのは、竿に字を書いたり、白い紙に字を書いて輪のようにして竿につけ並べておくのである。だから、いずれの文字のところにわが衣をかけたかを忘れず、間違えないようにする。それが記号なのである。僧たちがたくさん来ても、自他の竿の位置を乱してはならない。
原文「寺舎いたる法は、かならず手巾をもつ。その法は、手巾をふたへにをりて、ひだりのひぢのうえにあたりて、衫袖のうへにかくるなり。すでに東司にいたりては、淨竿に手巾をかぐし。かくる法は臂にかけたりつるがごとし。もし九条・七条等の袈裟を著してきたれらば、手巾にならべてかくべし。おちざらんように打併べし、倉卒になげかくることなかれ。よくよく記号すべし。記号といふは、淨竿に字をかけり。白紙にかけて、月輪のごとく円にして、淨竿につけ列せり。しかあるを、いづれの字にわが直裰はおけりとわすれず、みだらざるを、記号といふなり。衆家おほくきたらんに、自他の竿位を乱すべからず。」