「東司の作法」「洗浄しおわって、桶をその位置において、つぎにはへらをとってぬぐい乾かす。あるいは紙を用いてもよい。大小の両処をもよくよく拭いて乾かすがよい。つぎに、右手をもって袴の口、衣の角をつくろい、右手に桶をさげて厠をいずる時、蒲草履をぬいで、自分のはき物をはく。つぎに淨架にかえって、桶をもとのところに置く。つぎに手を洗うがよい。右手に灰のさじをとり、灰をすくうて瓦石のうえにおいて、右手をもって水をしたたらせ、触れた手を洗う。瓦石にあてて、研ぐようにして洗うのである。たとえば、錆の出た刀を砥石にあてて研ぐようなものである。そのようにして灰で三度洗うがよい。つぎには、土をおいて水を点じて洗うこと三度するがよい。さらに、つぎには、右手にからたちの実の粉をとり、小桶の水にひたして、両手をもちあわせて洗う。腕におよぶところまでよくよく洗うのである。誠をこめて丁寧に洗うがよい。灰三度、土三度、からたちの実の粉一度である。あわせて七度を適度とする。つぎに大桶であらう。そのときには薬料や土灰などを用いず、ただ水なり湯なりで洗うのである。一度洗って、その水を小桶にうつし、さらに新しい水をいれて両手で洗うのである。」

原文「洗浄しわはりて、淨桶を安桶のところにおきて、つぎに籌をとりてのごひかわかす。あるいは紙をもちゐるべし。大小両処、よくよくのごひかわかすべし。つぎに右手にて袴口・衣角をひきつくろひて、右手に淨桶を提して厠門いづるちなみに、蒲鞋をぬぎて自鞋をはく。つぎに淨架かへりてに、淨桶を本所に安ず。つぎに洗手すべし。右手に灰匙(かいし)をとりて、まずすくひて、瓦石(がしゃく)のおもてにおきて、右手をもて滴水を点じて触手をあらふ。瓦石にあててとぎあらふなり。たとへば、さびあるかたなをとにあててとぐがごとし。かくのごとく、灰にて三度あらふべし。つぎに土をおきて、水を点じてあらふこと三度すべし。さぎに右手に皂茭をとりて小桶の水にさしひたして、両手をあわせてもみあらふ。腕にいたらんとするまでも、よくよくあらふなり。誠心に住このときは、面薬して、慇懃(おんごん)にあらふべし。灰三度、土三度、皂茭(さいかち)一なり。あはせて一七度を度とせり。つぎに大桶にてあらふ。このときは、面薬・土灰等をもちゐず。ただ水にてもゆにてもあらふなり。一番あらひて、その水を小桶にうつして、さらにあたらしき水をいれて両手をあらふ。」

皂茭(さいかち)カラタチの実を粉にしたもので、それであらえばよく垢がおちるという。