東司の作法「華厳経にいはく。「水をもって手を洗わば、まさに願うべし衆生、上妙の手を得、仏法を受持せんことを」柄杓をとるには、かならず右手でするがよい。そのとき、柄杓の音をたてて、騒々しく7してはならない。水をぬらし、籮他知の実の粉をちらし、水置場のあたりを濡らすなど、おおよそふわただしく粗暴の振る舞いがあってはならない。つぎに、共用の手巾にて手をぬぐう。あるいは自分の手巾で拭く。手をふきおをったならば竿の下の直綴のまえにいたって、襷をはずして竿にかける。それからん合掌して、手巾をとき、直綴をとって着る。つぎに、手巾を左臂にかけて香をぬる。つぎに、手巾を左臂にかけて香をぬる。共用の香があって香木をもって瓶の形につくってある。その大きさは拇指ぐらいで、長さは指四つぐらい。一尺あまりの細い紐をもって、香木の両端に穴をあけて貫き、それを竿にかけてある。それを両の掌でもみあわせると、おのずから香気が両手に染むのである。襷を竿にかるときには、先のもののうえに重ね、襷と襷とが乱れてからまないようにするがよい。そうするには、みな仏国土を浄めることであり、仏国を荘厳にすることであるから、精細におこなって、あわただしくしてはならない。いそいで終わり、早く帰ろうなどと思ってしてはならない。ひそかに「東司上に仏法を説かず」という道理を考えてみるがよい。みんながいる方ばかりに気をとられてはならない。(道元:正法眼蔵・洗浄)
原文 華厳経云「位水泴掌、当願衆生、得上妙手、受持仏法」水觔杓をとらんことは、かならず右手にてすべし。このあひだ、桶杓おとをなし、かまびすしくすることなかれ。ミスをちらし皂茭をちらし、水架の辺をぬらし、おほよそ倉卒なることなかれ、狼藉なることなかれ。つぎに公界の手巾に手をのごふ、あるいはみづからが手巾にのごふ。手をのごひをはりて、淨竿のした、直綴のまへにいたりて、絆子を脱して竿にかく。つぎに合掌してのち、手巾をとき、直綴をとりて著す。つぎに手巾を左臂にかけて塗香す。公界に塗香あり、香木を宝瓶形につくれり。その大は拇指大なり。ながさ四指量につくれり。繊策の尺余なるをもちて、香の両端に薫ず。絆子を竿にかくるとき、おなじくうへにかけかさねて、絆と絆とみだらしめ、乱縷せしむることなかれ。かくのごとくする、みなこれ淨仏国土なり、荘厳仏国なり。審細にすべし、倉卒にすべからず。いそぎをはりてかへりなはやと、おもひいとなむことなかれ。ひそかに「東司上不説仏法」の道理を思量すべし。衆家きたりゐる面をしきりにまぼることなかれ。(道元:正法眼蔵・洗浄)