「得法に男女を論ずべきでない」「妙信尼仰山の弟子である。あるとき、廨院の主をえらぼうとして、すでに諸役を経てきた者たちに、「誰がよかろうか」と問うた。いろいろ問答があってののち、仰山はついに妙信尼は女人でこそあれ、大丈夫の志気がある。あれならばきっと廨院の主がつとまるであろう」といった。僧たちはみな賛成した。かくて妙信尼を廨院主にあてたが、仰山の門下にある高足たちは、誰も不平をいうものはなかった。それはけっして軽い役職ではないから、選にあたった者としては、大事に勤めねばならない。(道元:正法眼蔵・礼拝骨髄)

原文「妙信尼は仰山の弟子なり。仰山ときに廨院主を選するに、仰山あまねく勤旧前資等にとふ、たれ人かその仁なる。問答往来するに、仰山つひにいはく、信淮子(しんわいす)これ女流なりといへども、大丈夫の志気あり、まさに廨院主とするにたへたり。衆みな応諾す。妙信つひに廨院主に充す。ときに仰山の会下にある龍象うらみず。まことに非細の職にあらざれども、選にあたらん自己としては、自愛しつべし。」

廨院:役所の意。禅院の下邸であって、公事を扱いときには遠来の施主などを泊める等する場所。