「諸悪について」「さてここらいうところの諸悪とは、善・悪・無記の三つの性のなかの悪性である。だが、その性にはなんの実体はない。善性・無記性もまたおなじであって、また無漏である。実相であるともいうが、この三性につしては、なおいろいろのことがある。いまはまず諸悪につしていえば、この世界の悪とかの世界とはかならずしも同じではない。さきの時とあとの時でもちがうことがある。また、天上界の悪と人間界の悪もおなじからず、いわんや仏道と世間とでは、悪といい、善といい、無記というも、はるかに異なるのである。つまり、善悪は時によるが、時が善悪なのではない。善悪は事によるが、事が善悪なのでもはない。事がひとしければ、善がひとしく、事がひとしれば、悪がひとしいだけである。」

原文  「いまいふところの諸悪は、善性・悪性・無記性のなかの悪性あり。その性これ無生なり。なりといふも界善性・無記性等もまた無性なり。無漏なり、実相なりといふとも、この三性の箇裏に、許多般の法あり。諸悪は此界の悪と同不同あり、先時と後時と同不同あり、天上の悪と人間の悪とと同不同なり。いはんや仏道と世間と、道悪・道善・道無記、はるかに殊異あり。善悪は時なり、時は善悪にあらず。善悪は法なり、法は善悪にあらず。法等・善等なり。」