「白居易について」白居易は、「白将軍の末裔であるが。世々にもまれな天成の詩人であって、人は彼を「二十四生の文学」ともいい伝える。また、あるいは文殊といい、あるいは弥勒と称するなにど、その人柄はいろいろと語られ、文学に心ある人々はこぞってその下に集まった。だが、仏道については初心者であり、後進であった。ましてや、この「諸悪莫作、衆善奉行」の句について、その意味するところは、いまだ夢にもみないところであったらしい。だから彼は、道林もただ凡夫の考え方で、諸悪をつくるな、衆善をかしこみ行えといったのだと思い、仏道には千古万古のむかしから「諸悪莫作、衆善奉行」という古今を貫く道理があることは聞いたこともなかった。したがって仏道の実践もなく、仏法の力もなかったので、ありようにいったのである。」

原文「まことに居易は、白将軍がのちなりといへども、奇代の詩仙なり。」人つたふらくは、二十四生の文学なり。文殊の号あり。あるいは弥勒の号あり。風情のきこえざるなし、筆海の朝せざるなかるべし。しかあれども、仏道には初心なり、晩進なり。いはんやこの諸悪莫作、衆善奉行は、その宗旨、ゆめにもいまざみざるがごとし。居易おもはくは、道林ひとへに有心の趣向を認じて、諸悪をつくることなかれ、衆善奉行すべしていふならんとおもひて、仏道に千古万古の諸悪莫作、衆善奉行の亙古亙今なる道理、しらずきかずして、仏法のところをふまず、仏法のちからなきがゆゑにしかのごとくいふなり。」