「そこで蓮華色比丘尼はその過去世のことを物語っていった。「わたしは、自分の過去世の宿業のことを思いおこしてみますと、ある時には遊女となって、種々の衣服をまとい、馴染みのことばを弄びました。そのある時には、比丘尼の衣を身につけて、戯れ笑ったこともありました。それが縁となって、迦葉仏のころ比丘尼となりました。だがわたしは、自分の家柄と容貌の美しいことを誇り、心に驕慢をいだいて、ついに戒を破りました。戒を破ったために、時刻に墜ちて、いろいろとその報いを受けました。だが、やがてその罪の報いを受け終わりまして、釈迦牟尼仏にお会いすることができ、出家して六神通を身にそなえて、聖者の境地にいたることができました。それでわたしは、出家し受戒すればまた破戒を犯しても、なお戒の縁によって聖者の境にいたれるのだと知ったのであります。もしただ悪をなすのみにして、戒のえにしがなかったならば、とうてい道を得ることはできないでしょう。わたしもまたその昔は、生々世々にわって地獄に墜ち、地獄より出でては悪人となり、悪人が死んでまた時刻に墜ち、結局なんの得るところもありませんでした。いまは、これではっきり知ることができました。出家して受戒するならば、たとえまた戒を破ろうとも、その戒の縁によってついに道を得ることがてきるということを。」(道元:正法眼蔵・出家功徳)
原文「比丘尼言「我自憶念本宿命、時作戯女、著種種衣服、而説旧語。或時著比丘尼衣、以為戯笑。以是因縁故、迦葉仏時、作比丘尼。時自恃貴姓端正、生憍慢、而破禁戒。破禁戒罪故、墜地獄受種種罪。受畢竟、値釈迦牟尼仏出家、得六神通・阿羅漢道。「以是故知、出家受戒、雖復破戒、以戒因縁故、得阿羅漢道。若但作悪、無戒因縁、不得道也。我及昔時、世世墜地獄。従地獄出為悪人。悪人死還入地獄、都無所得。今以証知、出家受戒、雖復破戒、以是心念、可得道果。」