糞掃衣のこと「袈裟をつくる衣材は、かならず清浄なものをもちいる。清浄というのは、淨信の布施者の供養したもの、あるいは市場において買い求めたもの、あるいは天の住びとの贈るところ、あるいは龍神の淨施、あるいは鬼神の淨施、あるいは国王・大臣の淨施、あるいは浄らかな皮革、そのような衣材はすべて用いてよい。また、十種の糞掃衣を清浄であるとなす。其の十種の糞掃衣とは、つぎのようである。。一には、五嚼衣(牛の嚼んだ衣)、二には、鼠嚼衣(鼠の嚼んだ衣)、三には、火焼衣(火に焼けた衣)、四は、月水衣(女性の不淨をもって穢された衣)、五には、産婦衣(産婦によってけがされた衣)、六には､神廟衣(人が神廟に遺棄した衣)、七には、塚間衣(墓地に棄てられた衣)、八には、求願衣(山沢林野に神を祀り願をたてるために捨てた衣)、九には、王職衣(国王大臣より施与された衣)、十には、往還衣(死者に着せて葬場にいった衣を、持ち帰って施与されたもの)。それらを十種を特に清浄な衣材とするのである。世俗では捨て、仏道では用いる。世間と仏道とその為すところの異なることを測り知るがよい。だから、清浄な衣材をもとめようとする時は、この十種によってもとめるがよい。淨とはなにか、不淨とはとはなにかを辯るがよい。また、心を知り、身をわきまえるがよい。この十種をを得たならば、たとい絹の類であろうと、綿の類であろうと、ただその淨と不淨とを測ろうてみるがよい。」(道元:正法眼蔵)
原文゛袈裟をつくる衣財、かならず清浄なるものをもちゐる。清浄といふは、淨信檀那の供養するところの衣財、あるいは市にて買得するもの、あるいは天衆のおくるところ、あるいは龍神の淨施、あるいは鬼神の淨施む、かくのごとくのゐ財をもちゐる。あるいは国王大臣の淨施、あるいは淨皮、これらをももちゐるべし。また十種の糞掃衣を清浄なりとす。いはゆる十種糞衣、一者五嚼衣 二者鼠嚼衣 三者火焼衣 四者月水衣 五者産婦衣 六者､神廟衣 七者塚間衣 八者求願衣 九者王職衣 十者往還衣 この十種を、ことに清浄の衣財とせるなり。世俗には抛捨す。仏道にはもちゐる。世間と仏道と、その家業はかりしるべし。しかあればすなはち、清浄をもとめんときは、この十種をもとむべし。これをえて、淨を知り、不淨を弁肯定すべし。心を知り身を弁肯すべし。この十種をえて、たとひ絹類なりとも、たとひ布類なりとも、その淨不淨を商量すべきなり。」